💬インタビューレポート
教科書デザ
教科書のデザイン業務に約15年携わった経験があり、紙面設計(情報の強弱・見開き構造・校正工程)とデジタル実装の橋渡し課題に関心を持つ立場。
💬主な意見
制作ツールから要素の紐づけを渡せると良い
“InDesign等で「この要素はこの囲みに付随」などの指定を付け、表示側が解釈して構造を保った可変レイアウトを実装できるのが望ましい。
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本日は「デジタル教科書を正式な教科書として認めるための法案」について、お話をうかがえればと思います。立場や経験に合わせて進めますので、気軽にお答えください。 この法案は、あなたの生活や立場とどのように関わっていますか?
その他
「その他」なんですね。差し支えない範囲で大丈夫なので、どんな立場・状況からこの法案に関心を持たれていますか?
教科書のデザインを15年程していた
教科書のデザインを15年ほどされていたのですね。まさに当事者としての視点が伺えそうで心強いです。 デジタル教科書について、どの程度ご存知ですか?
ある程度知っている
承知しました。「ある程度知っている」とのことですが、デジタル教科書については、どんな形で知りましたか?
以前、これから普及するものとして注目して情報収集したのがきっかけ
普及を見越して早めに情報収集されていたのですね。 そのとき集めていた情報の中で、「これはデジタル教科書ならではだ」と感じた点はどんなところでしたか?
英語の発音がタップすると聞けるなど紙で表現しきれない内容にアクセスできる、また拡大してでき読む事に困難な人に便利。
英語の音声や拡大表示など、紙だけでは届きにくい学びを補える点に価値を感じていらっしゃるのですね。 そうした「紙では表現しきれないコンテンツ」を教科書として扱うことになった場合、内容の質を担保するうえで特に重要になりそうだと感じるのはどんな点ですか?
音声は大きな問題は感じないがデザイン上アイコンやタップボタンなどが増えて情報が多くわかりにくい紙面になる懸念はあった。 一方、拡大表示は明確な問題意識があります。従来誌面では理解を助けるためにレイアウトや情報の強弱を綿密に設定しますが、拡大するとそのレイアウトの担保は難しいです。実際の例をあまり知らないので想像ですが、レイアウトが崩れて文字のみ拡大される状況があるとしたら、それは情報の整理が狂って理解の妨げやノイズになる可能性がある。拡大に耐える紙面設計を紙の段階からてきると良いが、紙単体のレイアウトの分かりやすさには劣らないか、その辺りの課題は見過ごされがちだと思うのでデザイナーを介してクオリティを担保して欲しい。
とても具体的でイメージが湧きました。ボタンやアイコンで情報量が増えて紙面(画面)が散らかりやすいこと、そして拡大表示で“情報の強弱”や構造が崩れると理解のノイズになりうる、という懸念なのですね。 その「拡大でレイアウトの担保が難しい」という点について、学習上の支障が出やすいのは、どんなタイプのページ(例:図表が多い/注や囲みが多い/見開きで構造化している等)だと感じますか?
上記の例では見開きで構造化しているものです。感覚的にも理顔を助ける構造がそこにあります。ただし作り込まれててフレキシブルに形を変えるのは難しいと思われます。注や図表は、場合によりますが比較的対応できそうです
見開きで構造化しているページほど、理解を支える“全体の構造”が効いている分、拡大で崩れると影響が大きい、ということですね。作り込みが強いほど可変にしにくい、という感覚もすごく納得です。 その前提で伺いたいのですが、見開きの「構造」を保ったまま拡大させるために、デジタル教科書側に最低限必要だと思う仕様や機能はどんなものですか?
例えば元のデザインを作るアプリ上で、このアイテムはこの囲み記事に付随して動かす、などの指定をしたらそれを受け取って実装できる機能。特殊なアプリではなく例えばAdobeのInDesignなどの現場で普及しているアプリでで指定した挙動を受け取れると良いと思う。
制作現場のワークフロー(InDesign等)で「この要素はこの囲みに付随して動く」といった“意味づけ/紐づけ”を指定できて、その指定をデジタル教科書側が解釈して実装できる――という発想なんですね。レイアウトを単に拡大縮小するのではなく、構造を保ったまま再配置できるようにする、という課題設定がはっきりしました。 その「要素の紐づけ指定」を現場に導入するとしたら、デザイナー/編集側の作業として特に負担が増えそうなのはどの工程ですか?
デザイナーだと思うが、教科書は非常に厳密な校正が必要なので編集者の校正負担も大きい。またデジタルに渡す工程で挙動の確認と校正も必要と思うが、デジタルの専門家と出版と編集の専門家は普段あまり仕事で連携しないのでその受け渡しや、良いものを作るための相互理解の土壌の醸成が必要だと思う。
デザイナー側の追加作業に加えて、厳密な校正が必要な教科書ほど編集側の確認負担も増えそう、さらにデジタル実装の確認・校正まで入ると工程全体が重くなる、という見立てですね。加えて「デジタルの専門家」と「出版・編集の専門家」の間の受け渡しや相互理解がボトルネックになりうる、というのは現場感のある指摘だと感じました。 その“受け渡し”のところで、特にトラブルや手戻りが起きやすそうなのは、どんな場面だと思いますか?
レイアウトのデザイナーは静的な情報の動線づくりに長けているが動的な表現に明るくない。デジタル側の受け手はその逆と思います。受け渡し周辺の互いのスキルの情報交換や学び必要と思うが時間や予算が必要。その必要性を理解されるかが課題と思う。
静的な情報設計に強いデザイナーと、動的表現に強いデジタル側で“得意領域が反転している”ので、受け渡し付近で認識のズレが起きやすい、ということですね。そこを埋める学びや情報交換には時間・予算が必要で、その必要性が理解されにくい点が課題、というお話も重みがあります。 では、この法案でデジタル教科書が「正式な教科書」になることで、制作・検定・採択の現場で特に変わりそうだと感じる点はどこですか?
校正などで制作期間が少し伸びる気がします。
制作期間が少し伸びそう、という見立てなんですね。とくに教科書はミスが許されにくい分、デジタル分の確認が増えると影響が出やすそうです。 その「制作期間が伸びる」と感じるのは、どの工程にデジタル特有の確認作業が増えるイメージですか?
詳しくないので想像ですが、紙のデザインまでで検定を通していたので、その後の部分も文科省がチェックが入るとなると伸びそうだと思う。ただし技術内容は紙時点で固まってるのでそれほど大きな影響ないようにも思います。
イメージとしては、これまで検定の対象だった「紙の完成形」に加えて、その後工程のデジタル実装部分にも何らかのチェックが入ると、期間が伸びそうということですね。一方で、中身自体は紙の時点で固まっているので影響は限定的かもしれない、という見立ても理解しました。 では確認なのですが、デジタルが正式な「教科書」になるなら、紙と同じレベルで公的にチェックされるべきだと思うのは、どの部分ですか?
英語の発音音声や例えばタップして表示される追加情報などがあればその内容。またレイアウト観点では拡大等で変わった際に意味付けが変化しないか。
英語の発音音声やタップで出る追加情報の中身、それから拡大などで表示が変わったときに意味づけが変化しないか——このあたりは公的チェックが必要、ということですね。 「拡大などで意味づけが変わる」リスクについて、具体的には学習者がどんな誤解をしやすくなると感じますか?
弱 弱視で拡大したい使用者が、拡大前と位置がずれて内容の区切りや関連がわかりにくくなる
弱視などで拡大して読む学習者ほど、拡大前後で位置関係がずれて「どれとどれが同じまとまりか」「どこまでが関連情報か」が掴みにくくなる、という懸念なのですね。 この問題を避けるために、デジタル教科書の表示側で「これは同じまとまりだ」と学習者に分かるようにする工夫として、有効だと思うものはありますか?
上述のレイアウトアプリ上での指定
了解です。制作側(レイアウトアプリ上)の指定を、そのまま表示側が解釈できることが肝、ということですね。 次に伺いたいのですが、デジタル教科書を使うことについて、いちばん気になる懸念や課題は何ですか?
学習面(理解・集中・記憶など)
学習面がいちばん気になるのですね。 その「理解・集中・記憶」の中でも、デジタル教科書だと特に起きやすそうだと感じているのは、どんな変化ですか?
理解。なぜかわからないが自分が仕事の書類をiPadで見る時と紙に出力して見る時で理解度の差を明確に感じるから。
理解のところで差を感じていらっしゃるのですね。お仕事の書類でも、iPadだと入りにくくて、紙だとスッと理解できる感覚があるというのは重要な手がかりだと思います。 その「紙の方が理解しやすい」と感じるのは、読み方としてはどんな状態のときですか?
例えば文書を読む時や校正をしてる時、文のどの辺を読んでいたかを把握しやすい気がする。自分の現在位置を見失わない点かもしれない
文書を読む・校正する場面で、紙だと「今どこを読んでいるか」を見失いにくい感覚があるのですね。位置感覚が理解を支えている、ということだと受け取りました。 その“現在位置を見失わない”ために、デジタル教科書側にあると助かりそうな表示や操作はどんなものだと思いますか?
視覚以外が関与してするのでデジタルでは難しいと思う。強いて言えば視覚的にわかるゲージ、長さや位置で表すような目安のインターフェースがあるとよいかも
おっしゃる通り、紙は視覚だけでなく「手触り・厚み・めくる動作」みたいな感覚も一緒に位置把握に効いていそうで、デジタルで完全に代替するのは難しい、という前提がよく伝わってきました。その上で、ゲージのような“長さ・位置の目安”があると助かるかも、というアイデアですね。 そのゲージのような目安があるとして、学習者が特に助かるのは「教科書全体の中での位置」が分かることと「この見開き(この単元)の中での位置」が分かることのどちらに近いですか?
どちらも
どちらも、なんですね。 では、その「両方の位置」が分かるようにするなら、デジタル教科書の画面上ではどんな見せ方だと邪魔になりにくいと思いますか?
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承知しました。では視点を変えますね。 学校現場でデジタル教科書を正式に扱うようになったとき、運用面でハードルになりそうなのは何だと思いますか?
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分かりました。では最後に、制度を作る側へのメッセージを伺わせてください。 デジタル教科書に関して、制度設計をする人に何か一つ伝えることがあるとしたらそれは何ですか?
出版文化が培ってきた情報を伝えるノウハウをデジタル化の利点と両立させた設計を勧めたい。両者ともメリットデメリットがある。うまくミックスしてほしい。
お話ありがとうございます。出版文化が積み上げてきた「情報を伝えるノウハウ」と、デジタルの利点を両立させて設計してほしい、というご意見、とても重要だと感じました。 最後に確認させてください。紙とデジタルの「うまいミックス」が実現できている状態とは、制度としてはどんな選択肢(例:紙を基本にデジタル併用/原則デジタルで紙も選べる等)が用意されていることだと思いますか?
紙基本でデジタル併用。逆の作り方は難しいと思う
ありがとうございます。紙を基本にして、必要に応じてデジタルを併用する形が現実的で、逆(デジタル基本で紙を補助)だと設計的にも難しい、ということですね。 ここまでで事前の質問は一通り伺えましたので、これまでの内容をまとめ、レポートを作成します。
お時間を割いて詳しく共有いただき、ありがとうございました。以下、伺った内容の要約レポート案です。ご確認ください。