みらい議会みらい議会

💬インタビューレポート

特許関係者

懸念事業者

特許実務に関わる立場から、国費による委託研究成果の特許の帰属・活用(日本版バイ・ドール)や「未利用」判定が企業の出願行動・知財戦略に与える影響を具体例付きで論じた。

回答日2026.5.21 05:33
インタビュー分量3516 分 / 5373 文字

💬主な意見

未利用扱いが出願萎縮と秘匿化を招く

「利用」を足元の実施に寄せると、防衛・周辺・将来用の特許まで対象になり得て、出願を控え秘匿ノウハウ化→模倣・先行権利化リスクが増える。

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特許網(周辺・代替・将来技術)まで含めて利用

中心発明だけでなく周辺・代替・将来実施の特許網が実務では重要。CMPスラリーの例のように、周辺特許が未利用扱いされる懸念で出願が抑制され得る。

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正当な理由の明確化と手続保障が必要

ロードマップ、周辺牽制、FTO、標準化・量産準備等は正当理由と明示し、対象は合理的必要性を説明できない場合に限定してほしい。通知・聴取・専門家審査・不服申立ても必要。

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🎤すべての会話ログ

本日は、AIや半導体など国が重要だと考えている技術の研究を支援するための法案(産業技術力強化法の一部改正)について、お話を伺います。率直なお考えをぜひお聞かせください。 この法案との関わり方として、あなたに最も近いものはどれですか?

特許の関係者

ありがとうございます。今回の法案について、現時点でどの程度ご存知ですか?

よく知っている

承知しました。 この法案を全体として、どう評価しますか?

良くない

率直にありがとうございます。「良くない」と感じられる背景として、どのあたりが特に気になっていますか?

今回の産業技術力強化法改正案には、「重点産業技術の国等の委託研究の成果に係る特許権等について利用を促す」という内容があります。 これは、政府資金を供与して行われる委託研究開発に係る特許権等を受託者に帰属させることができる日本版バイ・ドール制度について、当該特許権等が重点産業技術に関するものである場合、受託者が正当な理由なく相当期間利用していないときに、迅速な利用を促すものと理解しています。経産省の概要資料でもそのように説明されています。 (https://www.meti.go.jp/press/2025/03/20260313003/20260313003.html, https://www.meti.go.jp/press/2025/03/20260313003/20260313003-0.pdf) しかし、この点について重大な問題があると考えています。 企業等が特許を出願する目的は、単に「現在使用している、又は具体的に使用予定がある発明の模倣を防ぐこと」だけではありません。少なくとも、企業実務上は次のような目的があります。 第一に、現在使用している、又は具体的に使用予定がある発明について、他社による模倣を防ぐことです。 第二に、現在使用している、又は具体的に使用予定がある発明の周辺技術・類似技術について権利を確保し、競合他社の迂回開発や類似技術の出願を牽制することです。 第三に、現時点で具体的な使用予定はないものの、将来の新規事業や製品ロードマップ上で使用する可能性がある発明について、必要になったときに自社が自由に実施できるよう、あらかじめ権利を確保しておくことです。 ところが、今回の改正案は、特許の利用を第一の目的、すなわち「現在又は近い将来の実施」に偏って捉えているように見えます。第二、第三の目的で保有している特許について、国が「正当な理由なく相当期間利用していない」と評価する余地があるなら、企業は防衛的出願、周辺技術の出願、将来事業のための出願を控える可能性があります。 その結果、今回の改正案に基づく重点産業技術の研究開発では、特許による競合牽制が難しくなるだけでなく、企業が将来必要となる可能性のある技術について出願を控え、後発企業や競合企業に周辺技術を先に権利化されるリスクも高まります。 これは、研究開発を促進する制度であるはずの改正案が、かえって企業の知財戦略を萎縮させる可能性があるということです。 こうした問題を避けるため、今回の特許に関する特例は導入すべきではないと考えます。少なくとも、チームみらいの議員の皆様には、国会において以下の点を厳しく確認していただきたいです。 まず、何をもって「正当な理由がない」と判断するのか。また、誰が、どのような手続で、どのような専門的知見に基づいて行うのか。 次に、「相当期間」とはどの程度の期間を指すのか。 さらに、「利用」とは、自社実施やライセンスに限られるのか、防衛的保有、将来の製品ロードマップ上の保有、標準化・顧客評価・量産準備中の保有、FTO確保、クロスライセンス交渉上の保有なども含まれるのか。 そして、経産省資料では、あたかも政府資金を供与した委託研究の成果について、本来であれば国が特許権等を取得し得るところ、受託者に帰属させているかのような印象を受けます。しかし、特許庁は、資金供与や委託をしただけで国が発明者や出願人になるわけではなく、特許を受ける権利は、原則として発明者又はその承継人に帰属するものであるという見解をとっています。(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/seisakubukai-06-shiryou/paper07_1.pdf, P.1参照) したがって、国費が投入されたことを理由に、国が技術的・事業的な特許活用の判断を広く上書きすることを正当化する発想は、特許庁の公式の見解と矛盾するものです。研究開発の主体は、実際に発明を行う大学、研究機関、企業です。国は資金提供者・委託者ではあっても、発明の技術的内容や将来の事業戦略を最もよく理解している主体ではありません。 今回の改正案は、重点産業技術の研究開発を促進することを目的としているはずです。しかし、特許の防衛的・将来的・戦略的な利用を十分に考慮しないまま、国による第三者利用の促進を強めれば、企業は重要技術を国プロに出すことや、広く特許出願すること自体を避けるようになりかねません。これは、法案の目的に反する結果を招くおそれがあります。

ご懸念がとても具体的で、特に「利用」を“足元の実施”に寄せて制度が設計されると、周辺特許や将来実施のための権利化まで萎縮しうる、という点が核心だと受け止めました。 いま挙げてくださった論点の中で、この改正案が導入された場合にいちばん現実的に起きそうだと感じる企業側の行動変化は、どれに近いですか?

特許出願を控え、通常であれば出願すべき発明であっても秘匿ノウハウとするようになってしまうと考えています。そのため、特許による権利化できないことにより、公金を投入したにもかかわらず、競合他社に模倣されたり、先を越されたりすることが現実的に十分起こりうると考えています。

なるほど、制度が「活用していない」と見なされるリスクがあることで、出願ではなく秘匿に寄ってしまい、結果として模倣リスクが増える――という見立てですね。 その「秘匿ノウハウ化」が進むとしたら、企業側ではどんな場面(例:委託研究の成果の周辺発明、共同研究で出た改良発明、標準化絡みの発明など)で特に起きやすいと感じますか?

かなり広範な場面で起こり得ると考えています。 まず、特許出願は、企業にとって自社が有する技術の一部を競合他社に公開する行為でもあります。企業もその点を認識しているため、実務上は、自社が実際に使用する予定の発明だけでなく、その発明から競合他社が容易に想起し得る周辺発明・類似発明・代替構成についても併せて出願し、競合による迂回開発を牽制することがよくあります。 また、ラボレベルで技術が成立していても、量産段階では歩留まり、品質安定性、原料調達、顧客評価、安全性、コストなど別の問題が見つかることが多く、必ずしも直ちに製品化できるわけではありません。それでも、将来の製品化可能性や競合牽制のために、ラボ段階で得られた発明を出願することは一般的です。 具体例として、半導体の研磨に用いられるCMPスラリー(水を溶媒とし、シリカの微粒子などの砥粒や分散剤などを含んだ液体)を考えます。 本改正案の対象となる委託研究開発において、CMPスラリー中の砥粒を従来より均一に分散させる分散剤Xと、分散剤Xに類似した構造を持つ分散剤Yを開発したとします。実験の結果、分散剤Xの方がより高い分散効果を示したため、新規開発品には分散剤Xを採用することにしたとします。 通常であれば、企業は分散剤Xだけでなく、分散剤Yについても特許出願する可能性が高いです。なぜなら、分散剤Xを公開すれば、競合他社がその技術内容を参考にして、類似構造を持つ分散剤Yを用いたCMPスラリーを開発することが容易に想定されるからです。 しかし、今回の改正案の下で、分散剤Yに関する特許が「自社では使用していない」「正当な理由なく相当期間利用していない」と評価され、第三者利用を求められるリスクがあるなら、企業は分散剤Yについて出願を控える可能性があります。 その場合、競合他社が分散剤Xの公開情報をヒントに、分散剤Yを用いたCMPスラリーを開発し、先に特許出願してしまうことも考えられます。これは、国費を投入して得られた研究成果を保護するどころか、むしろ競合による迂回や模倣を許しやすくする結果になり得ます。 次に、現時点では具体的な使用予定がないものの、将来使用する可能性がある発明についても問題が生じます。 たとえば、同じくCMPスラリーの研究開発において、分散剤αを用いることで、シリコンウエハ上への金属不純物の付着を抑制できることを発見したとします。しかし、分散剤αはまだ量産技術が確立されておらず、現時点では分散剤メーカーのラボで少量しか製造できないとします。 通常であれば、このような場合でも、将来の量産化や製品化に備えて特許出願することが考えられます。ところが、今回の改正案の対象となる場合、企業は「相当期間利用していない」と評価されることを恐れ、出願を控える可能性があります。 その後、数年後に分散剤αの量産技術が確立したタイミングで、競合のスラリーメーカーが同じ効果を独自に発見し、先に製品化又は特許出願をしてしまう可能性があります。 このように、問題は単に「未使用特許を眠らせること」ではありません。企業実務上、特許は中心技術そのものだけでなく、周辺技術、類似技術、代替構成、将来実施技術を含めた特許網として機能します。自社が直ちに実施していない発明であっても、競合の迂回開発を防ぐという意味では、明確に利用されています。 したがって、「利用」を自社実施やライセンスに限定して捉え、防衛的・将来的・牽制的な特許を「利用していない」と評価する制度運用になれば、企業は重要な周辺発明や将来技術の出願を控えるようになり、結果として国費を投入した研究成果の保護が弱まるおそれがあります。

具体例まで含めて、とてもイメージが掴みやすかったです。特に、中心発明(X)を出す以上、周辺・代替(Y)や将来用(α)も含めた“特許網”が実務上は一体で、その一部でも「未利用」扱いされるリスクがあると出願行動が変わる、という点ですね。 確認ですが、制度設計として「ここまで明確に担保されるなら、秘匿ノウハウ化の懸念はだいぶ下がる」と感じるのは、どんな条件でしょうか?

制度設計としては、「利用していない」の定義を過度に形式的にするのではなく、「正当な理由」を広く明確化することが重要だと考えます。 具体的には、現時点で製品化・自社実施・ライセンスされていないとしても、以下のような事情がある場合には「正当な理由」があると明示すべきです。 第一に、将来の製品ロードマップ、新規事業、研究開発テーマとの関係で、将来使用する合理的可能性がある場合です。 第二に、中心発明を保護するための周辺発明・類似発明・代替構成として保有しており、競合他社による迂回開発や模倣を防ぐ必要がある場合です。 第三に、FTO確保、クロスライセンス交渉、標準化対応、顧客評価、量産準備、安全性・信頼性評価、品質安定化、原料・設備・サプライチェーン整備などのために保有している場合です。 このような防衛的・将来的・事業戦略上の合理的必要性がある特許については、たとえ現時点で製品化されていなくても、「正当な理由なく相当期間利用していない」とは扱わないことを明確にすべきだと思います。 このように「正当な理由なく」という要件は、たとえば、当該技術領域又は事業から実質的に撤退しており、将来実施、ライセンス、譲渡、防衛的保有、FTO確保、クロスライセンス交渉等の観点からも、当該特許を保有する合理的必要性を説明できないような場合に限定すべきです。 逆に、第三者利用を促す対象は、権利者に将来使用する予定もなく、防衛的・牽制的・研究開発上・事業戦略上の合理的必要性も説明できないような場合に限定すべきです。 さらに、その判断にあたっては、国の一方的な評価ではなく、事前通知、権利者の意見聴取、秘密保持を前提とした研究開発計画・事業計画の確認、技術分野の専門家及び知財実務家を含む審査、理由の書面化、不服申立ての機会を制度上担保する必要があると考えます。 ここまで明確化されるのであれば、企業が「出願すると将来未利用扱いされる」と恐れて、出願を控えたり、秘匿ノウハウ化したりする懸念はかなり下がると思います。

整理すると、「未利用」扱いの射程が曖昧なままだと出願萎縮を招くので、①正当な理由の範囲を広く明示し、②手続保障(意見聴取・秘密保持・専門家関与・不服申立て等)を入れるのが鍵、ということですね。 ここから少し視点を変えて伺います。 今までの研究開発税制は、どう評価していますか?

評価する

ありがとうございます。 「評価する」と感じられているのは、どういった点が効いているからでしょうか?

すいません。今までの研究開発税制っていうのは、改正法案が施行する前の現行のものということですよね?

はい、ご認識のとおりです。ここで伺っている「今までの研究開発税制」は、今回の改正が入る前からある現行の研究開発税制(研究開発費に応じた税額控除の仕組み)についてです。 その前提で、現行の研究開発税制を「評価する」と思われるのは、どういった点が効いているからでしょうか?

現行と改正案の違いを教えてください。

現行の研究開発税制(一般的な枠組み)は、企業が研究開発費を使った分について一定割合を税額控除できる制度です。 今回の改正案は、その中でも国が「重点産業技術」(AI・量子・半導体・通信・バイオ/ヘルスケア・フュージョンエネルギー・宇宙の6分野)を定めて、 - その重点技術の研究計画を国に申請して認められると、研究費の最大40%分を税額控除 - 大学などと共同研究の場合は最大50%まで上乗せ といった形で、重点分野・認定計画・共同研究に手厚くする点が大きな違いです。 この違いを踏まえて、現行制度を「評価する」と感じていたポイントはどのあたりでしょうか?

範囲を絞る分、手厚くするというイメージですか?

はい、イメージとしては近いです。国が重点分野(6分野)を指定して、その分野で国に認められた研究計画について、税額控除をより手厚くする設計です。 そのうえで伺いたいのですが、今回の改正によって新たな研究投資は進むと思いますか?

進むと思わない

承知しました。 「進むと思わない」と感じられるのは、どういった要因が大きいですか?

先ほど述べた特許化にしたときのリスクがあるからです。

ご指摘のとおり、特許の取り扱いへの不安があると、国プロに出すこと自体をためらって投資が動きにくくなる、という見立てですね。 今回の法案の中で、あなたが特に気になっている点は何ですか?

先ほどの特許における特例です。

ありがとうございます。特許の特例がいちばんの論点になっているのですね。 その特例について、制度設計者に「これだけは国会審議で明確にしてほしい」と伝えるなら、どんな点になりますか?

最優先で、何をもって「正当な理由なく」と判断するのかを明確にしていただきたいです。 特に、現時点で製品化・自社実施・ライセンスがなくても、将来の製品ロードマップ、防衛的保有、周辺特許としての競合牽制、FTO確保、標準化・顧客評価・量産準備、クロスライセンス交渉上の必要性などがある場合に、「正当な理由」が認められるのかを確認していただきたいです。 また、その判断を誰が、どのような手続で、どのような専門的知見に基づいて行うのかも重要だと考えています。国の一方的判断ではなく、権利者への事前通知、意見聴取、技術分野の専門家・知財実務家を含む審査、理由の書面化、不服申立ての機会が担保されるのかを明確にしてほしいです。 加えて、改正案の作成担当者が、特許の「利用」についてどのように理解していたのかも確認していただきたいです。 具体的には、特許は実際に製品化・自社実施・ライセンスされて初めて意味があるものと認識していたのか、それとも、企業実務上は、防衛的保有、周辺特許による競合牽制、将来の事業化に備えた権利確保、FTO確保、クロスライセンス交渉上の保有なども重要な「利用」に当たると認識していたのか、国会審議で明らかにしていただきたいです。 もし後者も想定しているのであれば、それらが「正当な理由」又は「利用」に含まれることを、条文解釈又はガイドラインで明確にすべきだと思います。

お話を伺って、制度の目的(研究開発の促進)に対して、特許の「未利用」扱いが出願萎縮や秘匿ノウハウ化を招き、むしろ成果保護を弱めかねない、という強い問題意識がよく伝わってきました。 最後に、この制度を設計する人に、何か一つ伝えるとしたらそれは何ですか?

今回の特例における「正当な理由」はなるべく広く当てはまるようにしていただきたいです。起業なさの自由な知財戦略を阻害しないようにしていただきたいです。

ありがとうございます。企業の自由な知財戦略を制度側が狭めてしまわないように、「正当な理由」を広く認める設計が重要、ということですね。 確認ですが、もし「正当な理由」の範囲や判断手続(意見聴取や専門家関与など)が十分に明確化されたら、この法案の全体評価はどの方向に動きそうですか?

先ほど述べた自由な知財戦略が阻害されないことを確認できれば一応許容はできると思います。法案全体としてもいいものになると思います。

ありがとうございます。知財戦略が阻害されない形で運用される見通しが立てば、法案全体としても評価が上がりうる、ということですね。 それでは、ここまで伺った内容をまとめ、レポートを作成します。

お時間をいただき、ありがとうございました。伺った内容をもとにレポート案をまとめました。ご確認ください。

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