改正案のポイント
地域医療構想を、単なる病床数の最適化にとどめず、入院・外来・在宅・介護の連携まで含めた「提供体制全体」の将来像へと拡張します。全ての病院は機能に関する年次報告(例:高齢者救急の受入れ、急性期医療の拠点など)が義務付けられます。市町村を地域医療構想調整会議の構成員として明確化し、医療・介護の接続を強化します。
外来医師過多区域における無床診療所の新規開設は事前届出制となります。外来医師過多区域では、都道府県知事は不足している医療機能の提供を要請し、必要に応じて勧告・公表が可能になります。都道府県知事の要請に応じなかった場合等に限り、保険医療機関の指定に3年以内の期限を付すことを可能にします(令和8年4月1日施行)。
都道府県が特に医師不足が顕著となる地域を特定し、そこを「重点医師偏在対策支援区域」として設定します。保険者拠出金を原資に、手当上乗せを実施します。診療報酬のみで賄うと特定地域の患者負担が上がる問題を回避できます。
医療法にオンライン診療を定義します。実施基準(対面診療との組合せ・急変時対応)、受診の場を提供する施設の届出・標準設備、広告規律等を整備します。併せて、監視・立入検査における法律上の根拠を規定します。
電子カルテ情報共有サービスを法定化し、3文書・6情報(健診結果・診療情報提供書・退院サマリー/傷病名・アレルギー・感染症・検査・処方等)の標準共有を段階拡大します。感染症届を当サービス経由で届出可能にします。厚労大臣等所管DBの仮名化情報の研究・行政評価への利用/提供を制度化します(アクセス監査・追跡を前提)。
社会保険診療報酬支払基金は医療情報基盤・診療報酬審査支払機構へ改称・再編します。医療DX業務を担当する常勤理事(CIO)の設置、情報系組織の再設計、中期計画等を明文化します。
令和9年4月1日を中心に、一部は令和8年4月1日・10月1日、その他は公布後1〜3年以内の政令で定める日で段階施行します。
法改正が必要な理由
2040年頃に向けて、85歳以上を中心に医療・介護の複合ニーズが伸長します。救急→急性期→回復期→在宅・介護が連続して発生するため、病床偏重から機能ベースの地域医療構想への転換が不可欠です。各病院の機能の年次報告(高齢者救急の受入れ、急性期医療の拠点など)により、地域の役割分担を可視化して不足機能の補完や連携ルート(救急・リハビリ・在宅バックアップなど)を設計可能にします。
都市部外来の過多・地方/基礎診療の不足が課題となっています。重点区域への手当上乗せなどの経済的インセンティブと、外来医師過多区域での不足機能に対する要請→勧告→公表の仕組みなどを組み合わせ、ミスマッチの是正を図ります。
施設間で電子カルテがつながらず、救急時の情報欠落・重複検査・服薬事故リスクが残存しています。電子カルテ情報共有サービスを制度化し、3文書・6情報(健診結果・診療情報提供書・退院サマリー/傷病名・アレルギー・感染症・検査・処方等)を標準共有します。感染症届出の電子連携で行政把握を迅速化します。
オンライン診療の実施方法や、診療を行う施設・広告に関するルールが法令上明確化されておらず、安全性や誇大広告などの懸念があります。
この改正では、オンライン診療の定義と安全な実施基準を法令で明確にし、受診施設の届出や広告に関するルールを整えることで、安全で信頼できる診療体制をつくります。
医療DX関連のシステムについて、国の意思決定の下で速やかにかつ強力に推進していくため、全体を統括し、機動的で無駄のないシステム開発を行う必要があります。
今回の改正では、支払基金を再編しCIO(最高情報責任者)を設けることで、方針策定から運用までを一元的に管理できる体制を整え、全国で安定して止まらない医療情報基盤を確立します。
主な論点
事前届出や要請→勧告→公表は実効性がある一方、過度な介入や形式的な不足機能指定の懸念があります。要件の透明化など必要な手続きの整備が必要です。
保険者拠出は広域平準化に有効ですが、給付-負担対応の原則が薄いとの批判があります。そこで、総枠キャップ、按分式、用途の限定で正当性を担保します。
医療データを研究や行政評価に活用することで、診療の質向上や政策立案の精度が高まる一方、個人情報の再識別や目的外利用のリスクも高まります。
そのため、仮名化情報の厳格な管理や利用目的・必要性等の適切な審査、アクセスログ監査などを行いリスクを低減します。
また、本人同意の範囲やデータ利用の目的を明確にし、透明性を確保することが重要です。
医療機関間でデータを共有できるように標準化(HL7 FHIR/JP仕様準拠、オープンAPI)が進めば、連携が容易になりますが、特に中小の医療機関ではシステム改修や人材確保のコスト負担が課題となります。
このため、標準型EHRの導入支援や改修補助、SaaS型セキュリティ対策を通じて実装負担を軽減し、段階的な導入を可能にします。
また、データの可搬性を契約や標準仕様で明確化し、ベンダーロックインを避けることも求められます。
改正で影響を受ける可能性がある主体
都道府県
- 重点区域の指定(例:人口医師偏在指標、地理的条件等)をします。
- 偏在是正事業の設計・配分(手当単価等)を行います。
- 地域医療構想の更新(市町村・医療関係者・保険者等との協議など)をします。
医療機関(病院・無床診療所)
- 機能報告義務と、不足機能への対応要請に応じる責務が生じます。
- 要請に応じなかった場合などに限り、保険医療機関の指定に3年以内の期限を付すことが可能になります。
- オンライン診療適合(対面診療との組合せ、急変時対応等)が必要です。
- EHR改修・共有サービス接続・感染症届電子化へのIT/運用コストが発生します。
医師(勤務・派遣・開業希望)
- 重点区域勤務の手当上乗せ等の処遇改善があります。
- 外来医師過多区域において無床診療所の開業を予定する者は、事前届出と不足機能対応義務の可能性を織り込んだ事業計画が必要です。
保険者・支払基金(改組後"機構")
- 拠出金の徴収・按分・執行監査、医療DXの運営を担当します。
患者・住民
- 救急・紹介・在宅の回遊がスムーズになり、重複検査や薬剤重複が抑制されます。
- マイナポータル閲覧の利便性が向上します。一方で電子証明書期限切れ時の代替(資格確認書)等の周知が重要です。
大学病院・医療系人材供給主体
- 広域派遣・人材育成・難症例集約の役割を明確化します。地域医療構想における地域医療のハブとして再定義されます。
関連リンク